



【老人ホームの場所選び】30分以内にこだわる理由
もうすぐ80歳の女性(Aさん)がお一人で暮らされていました。要介護度3で認知症があり、ヘルパーとデイサービスを使いながら、自宅での生活ができていました。
しかしある時、急にAさんの足に痛みが生じ、自宅での生活が難しくなり、しばらく私のいる施設でショートステイで様子を見ることになりました。
Aさんの身寄りは近くに住む妹さん1人と関東に住む息子さんが2人。急に自宅での生活ができなくなった状況を重くとらえた息子さんたちは、「今後自宅での一人暮らしは難しいだろう」と考え始め、Aさんの近くに住む妹さんが買い物や食事のことなど、これまで身の回りのことを手伝われていたことから、妹さんが通いやすい私のいる特養へ長男さんが入居申し込みをされました。
私はすぐに関東にいる息子さんを呼び、わざわざ施設にきてもらい息子さんの住む関東の特養へ入居することを強く勧めたことがありました。
一つの考え方として参考になればと思います。
【老人ホームの場所選び】30分以内は誰のため?
では、ご本人のために選ぶポイントは何ですか?
- 「高齢になってから環境が変わることは精神的なストレスが多くかかるため、認知症への影響をできるだけ少なくするように、長年住み慣れた地域で探す方が良い」
- 「住み慣れた地域の近くだと昔からの友人や知人が訪問しやすい」
- 「自然豊かな場所で四季を感じることで精神的に穏やかな生活を送ることができる」
といった内容が目に入ります。
そして、
全てその通りだし、それが理想だと思います。
ご家族がもともと近くに住まれていて、30分以内に通うことができるのであれば上記の内容を踏まえた施設探しが可能だと思います。
30分以上離れているのであれば、環境面は無視してでも30分以内に通うことができる施設の中から選ぶことが結果的にご本人のためになるんです。
【老人ホームの場所選び】環境面は無視してでも30分以内
まず初めに誤解してもらいたくないのは、
老人ホームで働くサービスの質には十分確認をして施設を探すことが前提です。
施設探しについては別ページで説明しています。
▶「失敗しない老人ホームの探し方~たった2つのステップ~」
無視する環境面
住み慣れた環境
まず、環境の変化によるストレスについては、自宅から引っ越す時点でどこに移ろうが多くのストレスを受けます。また、同じ市内の施設であっても、部屋の感じは自宅と違うし、周りは知らない土地。遠く離れた家族のいる市に移っても同じことです。
また、昔からの友人や知人も同じ年代の方々が多く、その方々も次第に来られなくなることが多いです。
施設周りの環境
そして、残念なことに特養に入居されている方が外出する機会は年に数回あるかないかです。担当の職員さんの裁量もありますし、人員的な問題もあり頻繁に外出の機会が持てません。
ですので、日常的な散歩などはご家族の協力が必要になります。
30分以内のこだわり
これまでいろいろなご入居者とご家族と接してきましたが、最期を目前に一生懸命職員がケアを行い、満足され笑顔を見せられていても、「ご家族が訪れた時に見せられる笑顔には勝てない」と感じます。
離れていてもご家族と過ごす時間がご本人の幸せになる
「老人ホームに入居できたからあとはお任せ」ではありません。
私のいる特養では3ヶ月に1度サービス担当者会議をしますので、ご家族には必ず参加していただきます。
定期的にサービス担当者会議等でお越しいただく必要がある
緊急時を除き、定期的な病院受診はご家族の付き添いが必要です。
高齢になれば疾患の増加や悪化から病院受診の頻度が増えてきます。
定期受診でお越しいただく必要がある
緊急時に施設や病院へお越しいただく必要がある
最期を病院ではなく、施設で看取りのケアを受ける場合は週に何度も施設を訪れることになります。
最期を看取るのは施設の職員だけではありません。ご家族も一緒に最期を看取ることが大前提です。
ですので、体調がちょっと変化すると連絡をしますし、必要であればお越しいただくようお願いします。また、最低でも週に1度はサービス担当者会議を開きますのでその都度お越しいただきます。
30分以内のこだわり⑤
看取りケアでは週に何度も施設へ行く必要がある
課税世帯の方であれば良いですが、非課税世帯で負担限度額認定証や社会福祉法人減免を受けられている方は6月~7月の時期に申請書類を市役所等へ提出する必要があります。
また、指定難病の助成を受けたい場合も1年に1度、指定医療機関に受診し診断書を書いてもらい(その日で整わないことも)、市役所等で住民票と市民税非課税証明書の書類を整えて保健所へ提出する必要があります。
年に何回も役所へ必要書類を提出する必要がある
【老人ホームの場所選び】30分以内にこだわる理由:まとめ
自宅から特養などの老人ホームに移り住むということは、これまでの住み慣れた環境から大きく変化し不安や孤独からストレスが多くかかります。
また、特に特養へ入居するということはそこで最期を迎えられることも考えられて入居をされると思います。特に看取りの時期には死への不安も大きくなるので、ご家族の存在はとても大きいのです。
何度も言いますが、老人ホームに入居した時点で「後はお任せ」と介護から解放されるわけではありません。
日常的な介護はなくなりますが、違った形での関わり方の始まりになります。
- サービス担当者会議や定期受診で定期的に施設へ来る
- 体調の変化で急に呼び出しがあり急いで施設へ来る
- 必要書類の提出で施設と役所を往復
- 看取りになれば毎日のように施設へ来る
「入居してからの方が親の顔を見る機会が多くなった」と話されるご家族も多いほど何度も施設へ来ることになるのをご理解していただく必要があります。
うちの施設が大阪にあるので、「関東からでは仕事帰りにふらっと」また「週末は顔を見に」など頻繁に施設を訪れることが難しいでしょう。
近くに住む妹さんがおられますが、妹さんもご高齢。Aさんも急に歩けなくなったのですから、妹さんも体調の具合でいつ来られなくなるかわかりません。
妹さんが難しくなれば、その後は息子さんがキーパーソンとなります。
入居申し込みの時、わざわざ施設に呼ばれて「忙しいのに」とイライラしている状況で、入居してから何度も施設へ来ることができるでしょうか?
「仕事で疲れ、関東から大阪へ来ることに疲れ」ではご本人もご家族も幸せにはなれません。疲れて母親と合い、何を話しますか?その話は楽しい話になりますか?
気軽に行くことができれば、もっとお互いに笑顔で幸せな時間を送れるはずなのに。実家近くの施設を選んだために、ちょっとしか一緒に過ごす時間が持てず、新幹線に乗りながら「もっといい話をしてあげたらよかった」と後悔して帰る。
そんな風にはなってほしくない。これまで離れて暮らしていた分、最後は近くでもっと幸せになってほしい。
そんな想いを必死に伝えました。
その時は「考えてみます」と帰られましたが、1週間後に連絡があり「やっぱりこっちで探してみます」とのお返事をいただきました。
要介護度3だったので期限内に特養が見つかるか心配していましたが、意外と早く長男さんの近くにある特養の入居が決まりました。
その後3ヶ月程してから、当時担当だったケアマネさんから「あの時〇〇さんに関東で探すように言ってもらって本当に良かった」「長男さんの奥さんのお父さんも見ないと行けなくなったみたいで、〇〇さんのところで入居していたら全く来れない状況になっていたらしいの」と連絡がありました。
その方その方の状況でどっちが正解とかはないですが、
- 親がこの施設で生活を始めた時に家族の関り方はどうなるか
- その関わり方は親子共に幸せに感じるか
を一つの考え方に加えて老人ホームを探すと良いでしょう。
また、家族が気楽に通うことができる距離はだいたい30分以内が目安だと思います。
もしかしたら人によって「10分を超えると重い腰が上がらない」人もいるかもしれません。その場合は10分以内の場所でまず探してみてください。
老人ホームを探す時は老人ホーム検索サイトがおすすめです。
特に『LIFULL 介護』が探しやすいので個人的におすすめです。
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